【解説】警備員の24時間勤務と労働基準法に関する重要なポイント
警備業においては、施設警備や常駐警備などの業務形態により、いわゆる「24時間体制」が求められる現場も多く、勤務時間が長時間・連続的になるケースが目立ちます。
しかしながら、「連続して16時間以上働く」ような勤務形態は、労働基準法に違反する可能性があるため注意が必要です。適法に実施するためには複数の条件と制度上の整備が必要です。
労働基準法では、原則として1日の労働時間は8時間、週40時間以内と定められており、これを超える場合は 36協定 の締結と届出が求められます。仮に24時間勤務を導入する場合でも、交代シフト制の工夫や仮眠時間の確保がなければ、法令違反となるおそれがあります。
また、残業代や深夜割増賃金の適切な支払いも不可欠であり、給与や賃金の計算には正確な勤怠管理が求められます。不適切な運用は、労働者の健康問題や企業への行政指導につながる可能性もあるため、相談窓口の設置や社内研修を行うことが望ましいでしょう。
📝 導入のメリットと検討事項
・警備業務の安定提供が可能
・夜間の安心・安全を担保
・従業員の就業満足度が向上するケースも
ただし、長時間労働による負担や離職リスクも存在するため、システム化された管理と法令に基づいた運用が求められます。制度を正しく理解し、働く人が安心して働ける職場づくりを進めていくことが大切です。
警備業務における24時間勤務と労働基準法の適用について
📌 1.労働基準法の基本原則
労働基準法第32条により、労働時間は「1日8時間、1週40時間」を原則とし、これを超える労働は時間外労働として36協定の締結と届出が必要です。
⏱️ 2.24時間勤務の定義と実態
「24時間勤務」とは、1名の警備員が1暦日(0:00〜24:00)を通じて現場に常駐する勤務形態を指します。ただし、現実には休憩や仮眠を含んだ「拘束時間」としての24時間であり、必ずしも24時間すべてを労働時間として取り扱うとは限りません。
💤 3.仮眠・休憩時間の取り扱い
勤務中に仮眠や休憩を設けている場合でも、その時間が労働から解放されていない限りは労働時間に該当する可能性があります。たとえば、緊急対応が求められる待機中の仮眠は、労働時間とみなされるため、割増賃金や労働時間制限への配慮が不可欠です。
🛠️ 4.適法に24時間勤務を運用する方法
以下の手法により、24時間拘束型の勤務を適法に管理することが可能です。
・変形労働時間制の導入 (1ヶ月単位/1年単位の変形労働時間制を就業規則で定め、所轄労働基準監督署へ届出)
・36協定の締結と届出 所定労働時間を超える労働を伴う場合は、時間外・休日労働に関する協定(36協定)を労使で締結し、届け出る。
・仮眠施設の整備と労使協定による取り扱い明確化 仮眠時間が労働時間に該当しないよう、十分な休息環境と業務からの解放条件を確保する。
⚠️ 5.違法となる例
以下のような場合、法令違反となる可能性があります。
・労働時間が1日8時間、週40時間を超えているにもかかわらず36協定未締結
・仮眠・休憩を設けていても、実際に業務対応が求められている(労働時間扱い)
・24時間勤務の後に十分な休息(明け休み)が確保されていない
・労働時間の管理が曖昧、または勤怠記録が不備
勤務形態の設計におけるベストプラクティス
単に法令を遵守するだけでなく、業務効率・従業員満足・安全性のバランスを取ることが重要です。警備業界のような24時間体制が求められる業種では、特に以下のような設計が推奨されます。
✅ 勤務形態設計のベストプラクティス(警備業向け)
1.交代制勤務の導入
・8時間×3交代制や12時間×2交代制が基本
・深夜帯(22時〜5時)の割増賃金を確実に支払う
・交代間の休息時間(インターバル)を最低11時間以上確保するのが理想
2.変形労働時間制の活用
・1か月単位の変形労働時間制を導入し、繁閑に応じた柔軟なシフト設計
・労使協定の締結と労働基準監督署への届出が必要
・仮眠・休憩時間の明確な区分と記録が重要
3.明け休み制度の整備
・24時間勤務後の「明け休み」を制度化し、実質的な週休2日制を確保
・勤務→明け休み→休日の3日サイクルで疲労軽減
4.勤怠管理システムの導入
・勤務時間・休憩・仮眠・残業・休日労働を正確に記録
・残業代・深夜手当の自動計算機能付きが望ましい
・労働時間の見える化により、法令遵守と従業員の安心感を両立
5.健康管理と相談体制の整備
・ストレスチェック制度や健康診断の定期実施
・長時間勤務者への個別面談や相談窓口の設置
・夜勤専従者の導入も選択肢の一つ
📌 制度設計時のチェックポイント
項目 内容
労働時間 週40時間以内/36協定の範囲内
深夜労働 割増賃金25%以上/健康配慮
休憩・仮眠 明確な区分と記録/労働時間に含まれるかの判断
勤務表 シフトの公平性/連続勤務の回避
就業規則 勤務形態・賃金・休暇制度の明文化
こうした設計は、従業員の定着率向上・業務品質の安定化・行政対応の強化につながります。特に警備業では、現場ごとの特性に応じた柔軟な制度設計が求められます。
社内規定に含めるべき事項とは
社内規定に「警備業務における24時間勤務」を適法かつ安全に運用するためには、労働基準法や関連ガイドラインに沿った明文化されたルールが必要です。
社内規定に含めるべき主要事項
1.勤務体制と労働時間管理
・勤務形態の種類(例:1勤2休、当直、日勤・夜勤制など)
・変形労働時間制の採用有無(1ヶ月・1年単位など)およびその詳細
・所定労働時間、休憩時間、仮眠時間の区分と取り扱いルール
・勤務開始・終了時刻の定義とシフト作成の方法
・明け休み(日をまたいだ勤務後の休息時間)の設定ルール
2.休憩・仮眠・待機時間の取り扱い
・休憩・仮眠施設の確保状況とその使用方法
・仮眠・待機時間が労働時間に該当する場合の取り扱い
・業務からの完全な解放要件(「労働時間に該当しない」ことの根拠)
3.時間外・深夜・休日労働への対応
・36協定(時間外・休日労働協定)の内容と締結方法
・割増賃金の支払い基準(25%・35%など)と支払タイミング
・労働基準法第37条に準じた管理フロー
4.勤怠管理と記録保存
・勤怠管理の手段(ICカード・アプリ・手書きなど)と責任者
・労働時間の正確な記録方法と保存期間(3年間以上が望ましい)
・仮眠・休憩の実施確認や記録様式の明文化
5.安全衛生と過重労働防止
・過重労働にならないよう勤務時間や連続勤務の上限設定
・健康診断の実施頻度(深夜業を含む場合:年2回)
・勤務間インターバル制度の推奨(例:8〜11時間)
6.労使協定・就業規則との整合性
・労使協定(36協定や仮眠に関するもの等)のコピーを添付または参照
・就業規則との整合性確認と矛盾回避
・従業員代表による合意手続きの明記
7.例外的な勤務や緊急対応時のルール
・台風や地震など緊急時の勤務継続ルール
・上限を超える緊急時対応の許容条件と後日の補償措置
🧾 その他に盛り込むべき実務・運用面の規定事項
警備業特有の事情や安全配慮、トラブル対応の実務面をより強化する観点から、以下の項目も社内規定に含めておくと実効性と法的リスク回避の両面で有益です。
8.警備業法との整合性確認
・警備業法に基づく配置基準(隊員数、資格保有者)の遵守
・常駐先施設との契約条件や勤務要件との整合性
・警備業法施行規則に基づく勤務時間の制限に関する社内の適用基準明記
9.勤務拒否・健康理由による交代ルール
・心身の不調による勤務中断に備えた代替要員確保ルール
・応援体制の整備と連絡系統の明文化(例:隊長・統括管理者)
10.教育・研修・周知義務の明記
・仮眠・休憩時間の正しい取り扱いを含む新任・現任教育での指導義務
・36協定や就業規則、勤務体制に関する内容の周知方法と実施頻度
・勤務前説明会(ブリーフィング)時に確認すべきリスクと注意点
11.緊急時・異常事態発生時の勤務延長対応
・台風、地震、交通遮断等による勤務延長時の規定と記録様式
・「やむを得ず法定時間を超過した」場合の報告と代替休養ルール
12.深夜業への特例管理
・深夜(22時~5時)の労働に関する割増・健康診断・安全配慮義務
・深夜業が連続する警備対象における勤務間インターバルの推奨
13.定期的な勤務実態評価と見直し体制
・実際の勤務時間・休憩取得状況を定期的に点検・記録し、改善提案や協議の枠組みを整備
・長時間拘束による慢性的疲労を防ぐローテーション体制の整備
これらを文書化することで、労基署による是正勧告への予防的対応にもなり、同時に警備員のモチベーション維持・定着率向上にもつながります。
仮眠時間と休憩時間の区別ルール
判断基準(労基法ガイドライン参考)
「仮眠時間」が労働時間に該当するかどうかは、以下の要素を総合的に判断します。
✅ 業務への即時対応義務の有無 → 緊急対応があれば労働時間扱い
✅ 職場の離脱可否 → 現場を離れられない場合は労働時間とされやすい
✅ 仮眠施設の有無と環境 → ベッド・布団・照明設備など適切な休養環境の整備が鍵
✅ 労使協定・就業規則での明示 → 曖昧な記述ではなく、明文化が必要
社内規定案の記載モデル
第○条(仮眠時間および休憩時間の取り扱い)
- 深夜帯を中心に勤務が長時間となる場合、仮眠時間を最大〇時間設定することができる。
- 仮眠時間中においても、緊急事案への対応等により職務遂行を行った場合は、当該時間を労働時間として取り扱う。
- 仮眠時間が労働時間に該当しないためには、以下の条件をすべて満たす必要があるものとする。
(1)業務からの解放が保証されていること
(2)仮眠専用施設にて睡眠可能な状態であること
(3)仮眠中の緊急呼出しが発生しない環境であること - 休憩時間は労働時間の途中において1日あたり60分以上を確保する。休憩時間中は業務から完全に解放され、自由に利用できることとする。
実務上の注意点
・ 「仮眠時間中に出動がなければ労働時間に該当しない」とは限らない → 呼出しの「可能性」自体がカウントの対象に
・ 勤務日報などに「仮眠取得時間」や「緊急出動有無」等を記録しておくと、後のトラブル防止に有効
・ 労使協定(36協定)に仮眠・休憩の取り扱いも追記しておくとより実務が安定
36協定と勤務体制の連動ルール
労働基準法第36条(いわゆる「36協定」)により、法定労働時間を超える労働(時間外・休日・深夜)は労使協定の締結と労基署への届出が必要です。 この協定と現場で実施する勤務体制(特に変形労働時間制)を連動させるには、以下のような整合性を取る必要があります。
🧭 【構築すべき主な連動ルール】
1.勤務シフトのパターンと36協定の上限設定の整合
・36協定で定めた時間外労働の月・年単位の上限(例えば月45時間、年360時間)をもとに、シフト作成時に上限を超えない勤務組み立てを徹底
・24時間拘束勤務(1勤2休)においても、実働時間が36協定の範囲を超える場合は特別条項の設定が必要
2.変形労働時間制の採用と労働時間の平準化
・「1ヶ月単位の変形労働時間制」を採用している場合は、特定週や日だけ勤務時間が長くなっても、平均で週40時間以内に収まるような計算ルールを設計
・この変形労働時間の「超過分」がある場合、36協定でカバーしている必要あり
3.仮眠・休憩時間の扱いを36協定に反映
・仮眠時間が「労働時間」に含まれる場合、これも36協定上の労働時間にカウントされるため、シフト設計段階で勤務負荷の精査が不可欠
・労使で「労働時間と認めない条件(休息施設の完備、業務からの完全解放)」を共有し、仮眠時間の除外根拠を持っておくことが重要
4.勤務間インターバルとの調整
連続勤務回避のため「勤務終了から次の勤務開始まで○時間以上空ける」といった勤務間インターバル制度を設けると、36協定の遵守を補完しやすくなる
社内規定案の記載モデル
第X条(時間外労働と勤務体制の連携)
- 当社の勤務体制は、1ヶ月単位の変形労働時間制とし、シフト表に基づいて運用する。
- 所定労働時間を超える労働(時間外・休日労働)は、労使協定(36協定)に基づき運用され、1ヶ月につき45時間以内、1年につき360時間以内とする。
- 緊急対応や突発的な警備要請により上限を超える可能性がある場合は、特別条項付き36協定を労使で締結し、対象労働者への説明を行う。
- 仮眠時間は、業務からの完全解放が保証されている場合に限り労働時間から除外する。ただし緊急対応が常態化している現場では労働時間とみなす。
- 勤務シフト作成時には、36協定の上限を遵守し、適宜勤務間インターバル(○時間以上)を考慮して設計する。
実務面での補足
・36協定とシフト表の照合チェックリストを設けると、作成担当者が見逃しなく制度を回せます
・労使で定期的に協議する場をもち、勤務体制に無理が出ていないかモニタリングできるとベスト
・時間外実績の集計を月次で実施し、協定上限超過リスクを可視化
変形労働時間制の具体的なモデル条文
警備業での24時間勤務や1勤2休制などを想定した「1か月単位の変形労働時間制」に対応する社内規定のモデル条文を作成しました。就業規則や労使協定に記載する際のたたき台としてご活用いただけます。
社内規定案の記載モデル
第○条(1か月単位の変形労働時間制)
- 会社は、業務の繁閑及び勤務体制に応じて、労働基準法第32条の2の規定に基づき、1か月単位の変形労働時間制を採用する。
- この変形労働時間制において、各週の労働時間が40時間を超える場合があるが、1か月を平均して1週間当たりの労働時間が40時間以内となるよう勤務割を定める。
- 1日の労働時間は10時間を上限とし、始業および終業の時刻は勤務表により指定する。
- 休憩時間は労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は60分以上とし、勤務時間帯中に割り当てる。
- 勤務割の作成は、各月の始期7日前までに作成・掲示し、労働者に周知するものとする。
- この制度に基づく労働時間の割り当て、および休日の指定は、業務上の都合により変更する場合がある。その場合、変更理由と変更内容を速やかに労働者に通知する。
- この制度の導入および運用にあたっては、労働者代表と協議のうえ、労使協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届出るものとする。
補足として定めたい別条項(任意)
・勤務間インターバル(勤務終了後○時間の休息確保)
・36協定とのリンク条文(時間外・休日労働の上限管理と整合性確保)
・仮眠時間の労働時間該当性ルール(先にご案内した区別ルールと連動)
労働基準監督署への説明資料作成のポイント
労働基準監督署への説明資料を作成する際には、単なる概要説明ではなく、実際の勤務実態・社内規定・運用体制が「法令に則っていること」を明示的に裏付ける構成が求められます。以下に、特に警備業の24時間勤務に関するケースで効果的な資料構成と記載のポイントをご提案します。
監督署説明資料に盛り込むべき7つの要点
1.会社概要・業種・対象業務の説明
・法人名、所在地、代表者、管轄労基署
・警備業法に基づく認定番号
・業務の具体的内容(例:施設常駐警備、機械警備、イベント警備 等)
2.勤務形態の概要と勤務実態
・勤務シフト例(1勤2休制、24時間拘束型の場合の一日スケジュールなど)
・拘束時間、労働時間、仮眠・休憩時間の区分を図表付きで明示
・明け休みや勤務間インターバルの設置状況
3.労働時間の管理体制
・変形労働時間制の適用(1ヶ月単位等)とその届出済であること
・36協定の締結と届出状況(控え書類のコピー添付)
・勤怠管理方法(ICカード、アプリ等)と記録の保管体制
4.仮眠・休憩時間の労働時間該当性の判断と環境整備
・仮眠・休憩の定義と取り扱いルール
・仮眠室・休憩室の写真や設備概要
・呼出しがあるかないか等の実態に基づく労働時間該当性の説明
5.法令順守の体制・社内規定の抜粋
・就業規則の該当条項(労働時間、仮眠、休憩、休日など)の抜粋
・社内マニュアルやチェックリスト(仮眠取得記録票など)の提示
・労働者への周知方法(研修・説明会の写真や記録)
6.健康・安全配慮体制
・深夜業従事者への定期健康診断(年2回)の実施報告
・過重労働防止のための勤務制限や勤務間インターバル制度
・メンタルヘルス対策、産業医等の外部支援体制の有無
7.実地点検・改善履歴(ある場合)
・是正勧告の履歴とその対応状況
・自社内監査による業務点検・ヒアリング内容
・今後の改善計画(仮眠環境整備、人員配置見直しなど)
📂 付属資料として用意すると信頼性が高まるもの
種類 目的と利点
勤務シフト表(実物) 拘束時間と労働時間の違いが明確になる
就業規則の抜粋 自社ルールが法令に適合していると示せる
仮眠室・休憩室の写真 実際の休息環境を具体的に証明できる
36協定書の写し 時間外労働に対する手続きの適正性を担保
勤怠管理帳票・打刻記録 労働時間の正確な記録証明となる
仮眠・休憩記録票の様式 実運用の可視化、実態との整合性確認の資料
このような構成であれば、「労働実態の正確な把握」と「法令順守体制の明示」が両立され、監督官とのやり取りもスムーズになります。